旅路

藤原てい『旅路』


 表紙には、茶褐色に変色した轍の写真。

 緩く曲がりながら伸びていく道の先に、小さく写る女性の姿。


 そこから浮かぶイメージは、むかしの話、苦労を重ねた半生、振り返る余裕の生まれた幸せな現在。

 その程度のことしか想像できない。

 ところが、230ページほどの薄い文庫本には、壮絶な体験が綴られていた。

 敗戦後、満州から引き揚げる際の、混乱した状況。

 命からがらとは、このことを言うのだろう。

 月並みな感想だが、いまこの瞬間生きていることに感謝しつつ、できることは精一杯やろうと思う。

 カバーデザインは山影麻奈氏。(2018)



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# by robinsonfactory | 2018-10-13 22:38 | Comments(0)
接触

クレア・ノース『接触』


 『ハリー・オーガスト、15回目の人生』と同じ角川文庫から出ているのに、カバーのイラストレーターが違っている。

 どうしてだろう。

 ずっと疑問に思っていたが、調べてみると、いつの間にか『ハリー・オーガスト』のイラストとデザインの方が、『接触』に合わせて変わっていた。

 なぜだろう。

 kindle版の表紙と区別するため? ものすごく気になる。


 『接触』のイラストが違っているのは、小説の雰囲気を表すためだろうと想像していた。


 一瞬の接触で、相手の身体に乗り移ることができるゴースト。どんな人物にもなれるが、自身の肉体を持たない。つまり、帰るところがない。

 望めば、若い身体に移ることで、永遠に生きられる。苦手なことから、永遠に逃げ続けられる。

 ゴーストのこの生態を羨ましく思ったりはしない。むしろ、行き場のない閉塞感に包まれる。

 この感じ、『ハリー・オーガスト』の感触に似ている。

 

 ゴーストは、男にも女にもなれる。性を飛び越え、どちらも愛せる。

 それゆえ、カバーのイラストに漂う、ボーイズラブの匂いに納得したのだった。


 イラストはRe゜。

 デザインは西村弘美氏。



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# by robinsonfactory | 2018-10-01 22:33 | | Comments(0)
誰もいないホテルで

ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』


 表紙の絵を見ていると、とても穏やかで静かな世界を想像する。

 牧草地に、ところどころ茂る木々、かすかに見える湖、遥か先に連なる山。

 人々が散歩している。

 親子、恋人、仲間たち、犬を連れている人や、乳母車を押す母親。

 

 この平和な絵に描かれた人たちが、物語を読み進めるうちに、ささやき出す。

 

 10の短編は、書き手が異なっているのではと思うほど、雰囲気を変える。

 似ているのは、どれも危うい縁に立たされている感じがすること。

 異質な世界に手を引かれながらも、なんとか現実の世界に踏みとどまる。


 言ってはいけなかったひとこと、持たなければ良かった感情。意識せず、うっかり足を踏み入れてしまう場所はある。


 緑豊かな心和む風景の中で、表紙の恋人たちは口論をしているのかもしれない。


 イラストは矢吹申彦氏。(2018)



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# by robinsonfactory | 2018-09-21 18:32 | | Comments(0)
ブッチャーズ・クロッシング

『ブッチャーズ・クロッシング』(ジョン・ウィリアムズ)


 この本を読んだ人たちが集まり、感想を話し合ったとする。

 好きな箇所、嫌いな場面、疑問に感じるところ、それぞれが思うことをあげていくと、いつの間にか小説全体が語られてしまう。

 そんな小説ではないだろうか。

 駅馬車、埃っぽい町、アンドリューズの成長、武骨なミラー、残酷で過酷な経験。心に残るシーンは多い。

 小さなことに、命が吹き込まれているからだ。丁寧に積み重ねていくと、やがてとても大きな波となり、忘れられない読書となる。



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# by robinsonfactory | 2018-09-09 10:58 | Comments(0)
ジム・トンプスン

 文遊社から出ているジム・トンプスンの本が、『犯罪者』で4冊目になりました。

 それまで銀色を基調にしていたカバーが、今回は黒。何かの節目のように見えます。

 紙が微妙に変わったり、書体が少し違っていたりしますが、全体のトーンは似ています。天地50ミリの細い帯はすべて銀色で、背の「本邦初訳」は一緒。

 4冊を並べてみると、あれ、帯の文字がずれている。「本邦初訳」がすべて右側に寄っているのです。

 その理由はすぐにわかります。

 背には、日本語タイトルと英語のタイトルが並んで入っています。その両方の文字の幅全体が、背の中央にくるように配置してあります。そのため、日本語タイトルはやや右に寄っていて、帯の「本邦初訳」は日本語に合わせているからです。

 帯を取るとどうなるかというと、キャッチコピーの「本邦初訳」はなくなり、社名の文遊社が縦に入っているだけで、これも右に寄っています。

 これは仕方がないのでしょうか。

 文遊社が横組だったら、背の中央に配置できたでしょう。もしかしたら縦組という決まりなのかもしれません。そこでジム・トンプスン以外の本を調べると、やはり背文字の文遊社は縦組でした。

 とても細かく、どうでもいいことです。

 それとも、細かいところが気になるように、あえてずらして配置した策略なのでしょうか。


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# by robinsonfactory | 2018-08-14 18:32 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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