橋の上の天使

ジョン・チーヴァー『橋の上の天使』


 雑誌『モンキー』vol.15に、ジョン・チーヴァーの短編が6本掲載されていた。

 初めて読んだジョン・チーヴァーは、想像していたより面白かった。もっと読みたいと手に取った『橋の上の天使』、実は何年も前に古書店で買ったものだ。


 15本の短編があり、そのうち半分くらいが好みの小説。

 何かが起こりそうな、かすかな緊張感があって、本当に何か事件が起こってしまうと、もとの生活に戻れなくなってしまう感覚が、読後しばらく続く。

 そんな中、表題の『橋の上の天使』は、ホッとする。一番最後に入っていて、とても短いのだが、それまでの14編で凝ってしまった身体をほぐしてくれるようだ。


 作中の天使は女性で、表紙に描かれている男性とは、イメージが違う。

 1992年刊行の本で、それほど古くはない。しかし写植からDTPへと、変化の激しい時代に取り残されたようなデザインの表紙、という印象はある。

 文字の詰め方は、とっても好きだけれども。


 装丁は渡辺和雄氏、装画は宮いつき氏。


 村上春樹氏訳のジョン・チーヴァーの新刊が出るようで、装丁ともに楽しみ。


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# by robinsonfactory | 2018-11-02 19:05 | | Comments(0)
日が沈むのを

野呂邦暢『日が沈むのを』


 野呂邦暢小説集成2。

 1巻目と表紙の印象が似ているが、よく見ると少し違う。

 絵が異なるだけでなく、刷り色も微妙に違う。どちらも特色を2色だけ使っていて、その組み合わせが同じではないのだ。

 カバーの紙は薄く、丁寧に扱わないと破いてしまいそうだ。

 野呂邦暢の文章に似て繊細な本。


 本文の行間がわりと広い。

 同じ判型のほかの本より、1ページの行数が5行くらい少ない。

 総ページ数が600に近い厚い本。行間を詰めて薄くせず、この厚さを保つようにしたのかもしれない。

 馴れないと、この行間の白地に目がいってしまい、読書の呼吸が乱れる。

 でも、ときにこの間に意味があるように感じる文章がある。


「今なにをして生活しているんだ」


「あそんでいます」


「ひとり」


「ええ」

 (『日常』から抜粋)


 会話の間に、表情の変化があり、身体の動きも想像される。

 野呂邦暢を読む楽しさの、ひとつかもしれない。(2018)


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# by robinsonfactory | 2018-10-23 18:56 | | Comments(0)
旅路

藤原てい『旅路』


 表紙には、茶褐色に変色した轍の写真。

 緩く曲がりながら伸びていく道の先に、小さく写る女性の姿。


 そこから浮かぶイメージは、むかしの話、苦労を重ねた半生、振り返る余裕の生まれた幸せな現在。

 その程度のことしか想像できない。

 ところが、230ページほどの薄い文庫本には、壮絶な体験が綴られていた。

 敗戦後、満州から引き揚げる際の、混乱した状況。

 命からがらとは、このことを言うのだろう。

 月並みな感想だが、いまこの瞬間生きていることに感謝しつつ、できることは精一杯やろうと思う。

 カバーデザインは山影麻奈氏。(2018)



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# by robinsonfactory | 2018-10-13 22:38 | | Comments(0)
接触

クレア・ノース『接触』


 『ハリー・オーガスト、15回目の人生』と同じ角川文庫から出ているのに、カバーのイラストレーターが違っている。

 どうしてだろう。

 ずっと疑問に思っていたが、調べてみると、いつの間にか『ハリー・オーガスト』のイラストとデザインの方が、『接触』に合わせて変わっていた。

 なぜだろう。

 kindle版の表紙と区別するため? ものすごく気になる。


 『接触』のイラストが違っているのは、小説の雰囲気を表すためだろうと想像していた。


 一瞬の接触で、相手の身体に乗り移ることができるゴースト。どんな人物にもなれるが、自身の肉体を持たない。つまり、帰るところがない。

 望めば、若い身体に移ることで、永遠に生きられる。苦手なことから、永遠に逃げ続けられる。

 ゴーストのこの生態を羨ましく思ったりはしない。むしろ、行き場のない閉塞感に包まれる。

 この感じ、『ハリー・オーガスト』の感触に似ている。

 

 ゴーストは、男にも女にもなれる。性を飛び越え、どちらも愛せる。

 それゆえ、カバーのイラストに漂う、ボーイズラブの匂いに納得したのだった。


 イラストはRe゜。

 デザインは西村弘美氏。



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# by robinsonfactory | 2018-10-01 22:33 | | Comments(0)
誰もいないホテルで

ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』


 表紙の絵を見ていると、とても穏やかで静かな世界を想像する。

 牧草地に、ところどころ茂る木々、かすかに見える湖、遥か先に連なる山。

 人々が散歩している。

 親子、恋人、仲間たち、犬を連れている人や、乳母車を押す母親。

 

 この平和な絵に描かれた人たちが、物語を読み進めるうちに、ささやき出す。

 

 10の短編は、書き手が異なっているのではと思うほど、雰囲気を変える。

 似ているのは、どれも危うい縁に立たされている感じがすること。

 異質な世界に手を引かれながらも、なんとか現実の世界に踏みとどまる。


 言ってはいけなかったひとこと、持たなければ良かった感情。意識せず、うっかり足を踏み入れてしまう場所はある。


 緑豊かな心和む風景の中で、表紙の恋人たちは口論をしているのかもしれない。


 イラストは矢吹申彦氏。(2018)



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# by robinsonfactory | 2018-09-21 18:32 | | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
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