町田康の小説は、その場の思いつきとリズムで、へらへらと書いているような空気がいい。
「バイ貝」は、どうでもいいような話だが、なんとなく引き込まれる。並べられた言葉は、実は丁寧に選ばれていて、一見破天荒だが、繊細。
表紙には、筆で描かれたイラストとタイトルが、和綴じの本を模した体裁の中に収まっている。丁寧に書かれた文字だが達筆とは思えず、イラストも上手なのかそうでもないのか判断がつかない。
よく見ると、これは実際に和綴じの本を制作し、それを写真に撮ったようだ。全体にとても細かく、手間のかかる作業だろうが、それを感じさせない。あえてセンスよくまとめない、その微妙なセンスが、町田康の文章と重なる感じがする。
装丁は石川絢士氏。