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暗いブティック通り
古い友人に久しぶりに会って昔の話をしていると、まったく記憶にないエピソードを楽しそうに話してくる。途中で「それ、ぼくじゃないよね?」と、さりげなく疑問を口にしてみるが、間違いないと友人は自信たっぷりだ。聞いていると、確かにぼくらしい言動だけれど、まったく記憶にない。その出来事だけ、なぜかすっぽりと抜け落ちてしまっている。 でも、本当にそれは自分なのか。そいつは一体誰だ? 「暗いブティック通り」は、記憶を無くした男が、自分の過去を探っていく。まるで他人の人生を調べるかのように、細い手がかりをたどり、かつて自分と関わりのあったと思われる人たちに会う。記憶を無くしたことを隠し、相手に話を合わせるのは、危うく、下手をすると怪しまれて口を閉ざされるかもしれない。 そんな微妙な空気が流れていて、ただの謎解きとは違う展開を予想させる。 著者のパトリック・モディアノ氏がノーベル賞を受賞したとき、書店に何冊も本が並んだ。その中に、金文体という変わった書体をタイトル、著者名などに使った一冊があった。手に取ると緒方修一氏のデザイン。 なぜこの書体を使ったのだろう。緒方氏の装丁だからなにかしら意図があるはずだが、いくら考えてもはっきりしない。それならば、読めばきっと何かしらのヒントが得られるだろう。 しかし、読み終わっても、まだこの装丁が伝えようとしていることがわからなかった。 読後モヤモヤ感が残る小説で、表紙を見ていても同じような気分。それが狙い?
装画は吉實恵氏。
by robinsonfactory
| 2015-08-15 11:43
| 本
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