表紙のイラストは、昭和20年代頃の東京。路面電車とクラシカルなタクシー。一番手前に、鞄を肩から下げた中学生が歩いている。おそらく著者の姿だろう。簡単な線で描かれた小林泰彦氏の絵は、じっと見つめていると、街の音が聞こえてきそうだ。
小林信彦「流される」。
装丁は大久保明子氏。タイトルの明朝が、微妙にかすれているのが、いい雰囲気。
自伝的小説。中学生の小林少年は、書店でジョルジュ・シムノンの本を万引きして捕まってしまう。
「これは探偵小説です。このごろは推理小説と申しますが。どうも中学生にふさわしいとは思えませんので」
店員が、連絡を受けてやってきた小林少年の祖父に説明する。
ジョルジュ・シムノン。
メグレ警視シリーズを、書店でよく見かけた記憶があるけれど、いまこの人の本を探すと、ほとんどが古本でしか見つからない。
隔世の感。
小林少年が手にしたのは、どの本だったのだろう。