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> 地球の中心までトンネルを掘る

 ケヴィン・ウィルソン「地球の中心までトンネルを掘る」。

 高校を卒業して、ぼくもしばらく穴を掘っていた。目指すところはなく、ただ目の前にある地面に穴を開けるだけの、先行きの見えない行為だった。

 たぶん誰にでも経験があることだろう。目的もなく学校に行くだけだったり、バイトをするだけだったりの毎日。きっと自由になった分、規則や制約の支えがなくなって、バランスをうまく取れない時期だったのだ。


 穴を掘り続ける息子と友人たちを、両親は暖かく見守る。何をしたいのかさっぱりわからない、でも幸せになってほしいと。差し入れをしてくれるが、経済的なことから、それがだんだん少なくなっていく。そろそろ終わりにしなくてはいけないのだ。


 ほんとうのような嘘が並ぶ短編集。現実にありそうだけれど、ちょっと違う世界。そこには自分のような人がいる。


 表紙の絵、穴を照らすライトの灯りが、ほんのり気持ちを暖かくしてくれる。奇妙な物語ばかりだけれど、根は優しい。

 装画は塩田雅紀氏、装丁は中村聡氏。


by robinsonfactory | 2015-11-23 10:17 |

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