『悲しみの港』(小川国夫)
色とりどりのストライプの背が並ぶ棚。手に取ると、ちょっとずんぐりした感じのB6サイズ。小学館のP+D BOOKSというシリーズだ。
年配の人向けの本なのか、そう思って開くと、若干文字組がゆったりしている。紙は、P+D(ペーパーバックとデジタル)の名の通りいい感じにチープさが漂い、ガシガシと読みたくなる造り。
渋いラインナップの中から、まだ読んだことのない小川国夫を買ってみた。
とても簡単にいうと、親のすねをかじりながら、小説を書いている青年の話。文学を生み出そうと苦しんでいるのに、周囲の人たちの温かいまなざしに鈍感で、青臭い。原稿がやっと雑誌に掲載されることになるが、原稿料は出ない。一度も働いたことがなさそうなのに、肉体労働ならできると思い込む。けれども身体は弱い。
感情移入がまったくできない主人公。ただ、恋する女性の家に押しかけ求婚するものの、娘の父親に優しく諭され、無力なまま帰宅する、あまりに不器用な姿に同情する。
最後は、苦しまぎれの明るさが、切ない。