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ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』


 表紙の絵を見ていると、とても穏やかで静かな世界を想像する。

 牧草地に、ところどころ茂る木々、かすかに見える湖、遥か先に連なる山。

 人々が散歩している。

 親子、恋人、仲間たち、犬を連れている人や、乳母車を押す母親。

 

 この平和な絵に描かれた人たちが、物語を読み進めるうちに、ささやき出す。

 

 10の短編は、書き手が異なっているのではと思うほど、雰囲気を変える。

 似ているのは、どれも危うい縁に立たされている感じがすること。

 異質な世界に手を引かれながらも、なんとか現実の世界に踏みとどまる。


 言ってはいけなかったひとこと、持たなければ良かった感情。意識せず、うっかり足を踏み入れてしまう場所はある。


 緑豊かな心和む風景の中で、表紙の恋人たちは口論をしているのかもしれない。


 イラストは矢吹申彦氏。(2018)



by robinsonfactory | 2018-09-21 18:32 |

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