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卵を産めない郭公

『卵を産めない郭公』(ジョン・ニコルズ)

 こんなに酒ばかり飲む学生時代を過ごしていないし、プーキーのような変な女の子と付き合ったこともない。著者の実体験を綴ったような、細かい箇所がときどき妙に具体的な小説。だらだらした生活で、感情移入できるところもない。

 でも、行き詰まってどうしようもない人との関係が、毎日の生活の中で大きなウエイトを占めていたのは、若い時の方が多かったなと思い出す。

 きっと村上春樹訳がとてもいいのだろう。50年も前の世界だと意識することがなく、いまの空気感で読めるのは。


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by robinsonfactory | 2018-02-23 18:37 | Comments(0)
剃髪式

『剃髪式』(ボフミル・フラバル)

 石油ランプの丁寧な描写が続き、このままビール醸造所の静かな生活が描かれていくのだろう、穏やかな気持ちにさせる小説。と思っていたら、とんでもなかった。

 これどこまで本当? 小説に向けてする質問ではないが、はじけすぎて想像が追いつかない。だんだん馴れてくると、いくらか余裕を持って楽しめるけれど、さらに上をいく出来事が。

 150ページほどの薄い本のなか、何度も気持ちが動かされる。最後は、これで終わってしまうのか、やっとわかってきたところなのに。ちょっと心残りなので、もう一度最初から読み直してみる。

 幸いなことに、フラバルの本は、ほかにも新刊で手に入りそうだ。


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by robinsonfactory | 2018-02-08 19:43 | Comments(0)
東の果て、夜へ

『東の果て、夜へ』(ビル・ビバリー)

 帯を外してカバーを眺める。赤い文字で惹句がびっしり詰まった帯は目に痛く、外すと一気に静寂が訪れた。

 誰もいないガソリンスタンドの写真。手前の道路が白く見えるのは靄か、雪か。奥の山の斜面も白いので、雪だ。

 地元のスタンドというより、どこか見知らぬ土地に来た気分。左右いっぱいに広がった「夜へ」「果て、」「東の」の文字が、まだ旅の途中という思いにさせる。

 少年たちの奇妙な旅。これから人を殺しに行くという。不安定な人間関係と、心もとない情報。案の定、トラブルだ。

 人生に疲れ果てた大人のような1人の少年は、ときおり子どもっぽさを露呈する。この小説に希望が見える気がするのは、その一瞬だ。

 何度カバーを見ても、そのたび「夜へ果て東の」と読んでしまうので、最後までタイトルを正確に覚えられずにいたが、この本のことは忘れずにいよう。ほぼ完璧な小説なのだから。

 デザインは鈴木久美氏。


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by robinsonfactory | 2018-01-29 20:33 | Comments(0)
天国の南

『天国の南』(ジム・トンプスン)

 表紙のモノクロ写真は、古い映画の一場面のようだ。銀色の英文字は、角度によっては光って見えにくくなるので、一瞬、劣化した、本当に古い本だと感じてしまう。

 でも、ジム・トンプスンの新刊。古書店でなく、新刊書店で見つけたのに、いまこの作家の本が新しく出版されたのが信じがたく、古本を手に取るような気分だった。

 読み進めていくうちに、これは個性的な犯罪者の物語ではないのだとわかってくる。想像していた世界と違う。ぶっきらぼうな中に、ときおり、真っすぐな気持ちが見えてくる。まるで21歳そのままの文章。

 ジム・トンプスンは、こんな物語も書いていたのか。

 軽い造本もいい。膝を立てて床に座り、片手で本を開く、そんな格好がきっと似合う。

 写真はドロシア・ラング、装丁は黒洲零氏。


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by robinsonfactory | 2018-01-19 20:18 | Comments(0)
ストーナー

『ストーナー』(ジョン・ウィリアムズ)

 空気が感じられる。かすかな匂いがある。それはたぶん自分が好きなものだ。たとえば書店。和紙専門店。

 心地よい香りが、いつのまにか気分をリラックスさせているように、気づくと、心の中に小説の世界が入ってきている。

 この小説は、語り続けなくてはいけない。書店はこの本を常備すべきだ。

 カバーの紙の手触り、そこにかすかに見える、本の形をしたオブジェ、タイトル文字の凹凸、その深い墨。すべてが忘れがたい、大切なものとして記憶される。

 装丁は水崎真奈美氏。


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by robinsonfactory | 2017-12-23 10:20 | Comments(0)
日本の悪霊

『日本の悪霊』(高橋和巳)

 なぜ、いま高橋和巳を読もうとしたのか。それは河出文庫の装丁のせいだ。

 上半分にモノクロ写真、中央に白抜きの太い明朝でタイトルと著者名。シンプルでありながら、森山大道氏のブレた写真が疾走感を生み、タイトルと相まってノンフィクションのような硬さと緊張感を醸し出している。

 文章は濃厚だ。

 舞台は1960年代。刑事と犯罪者の心理が丁寧に綴られる。一見ミステリーのようだが、謎解きに主眼をおいていないことは、だんだんわかってくる。ただただ2人の空気が重く息苦しい。これは時代によるのか、それとも人間は常にストレスを抱えてしまうものなのか。たとえ社会が変化しても。

 デザインは岩瀬聡氏。


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by robinsonfactory | 2017-12-16 12:19 | Comments(0)
悲しみの港

『悲しみの港』(小川国夫)

 色とりどりのストライプの背が並ぶ棚。手に取ると、ちょっとずんぐりした感じのB6サイズ。小学館のP+D BOOKSというシリーズだ。

 年配の人向けの本なのか、そう思って開くと、若干文字組がゆったりしている。紙は、P+D(ペーパーバックとデジタル)の名の通りいい感じにチープさが漂い、ガシガシと読みたくなる造り。

 渋いラインナップの中から、まだ読んだことのない小川国夫を買ってみた。

 

 とても簡単にいうと、親のすねをかじりながら、小説を書いている青年の話。文学を生み出そうと苦しんでいるのに、周囲の人たちの温かいまなざしに鈍感で、青臭い。原稿がやっと雑誌に掲載されることになるが、原稿料は出ない。一度も働いたことがなさそうなのに、肉体労働ならできると思い込む。けれども身体は弱い。

 感情移入がまったくできない主人公。ただ、恋する女性の家に押しかけ求婚するものの、娘の父親に優しく諭され、無力なまま帰宅する、あまりに不器用な姿に同情する。

 最後は、苦しまぎれの明るさが、切ない。


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by robinsonfactory | 2017-12-08 22:32 | Comments(0)
曲芸師のハンドブック

『曲芸師のハンドブック』(クレイグ・クレヴェンジャー)

 2008年に出版されたこの本は、いま新刊では手に入らない。クレイグ・クレヴェンジャーの著作も、翻訳されたものがほかには出ていない。なぜだ?

 本棚の奥にしまったまま、この本のことはずっと忘れていた。「発掘」して読んでみると、本当にこれはいい本を「発掘」したとわかった。いまさらながら。しかし、周りを見ると、この本は世間的には化石になっていたのだった。

 曲芸師の話ではないし、膝がありえない方向に曲がっている、表紙の男の話でもない。薬物中毒も、書類の偽造も些末なことだ。本筋は愛だ。この小説の中心には愛が流れている。

 秘密に気づいたとき、ページを戻して読み返してみると、そこここに愛の断片が見えてくる。


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by robinsonfactory | 2017-11-25 10:11 | Comments(0)
パリのすてきなおじさん

『パリのすてきなおじさん』(金井真紀)

 書店で平積みになっている本を一冊取ると、下には別の本が。いや、よく見るとイラストが違う同じ本だ。帯の隅に、4つの帯デザインがあると記されている。でもその書店には2種類しかない。デザインが違うといっても、おじさんのイラストが異なるだけのようで、最初に手に取った本を購入した。

 パリでおじさんを蒐集し、イラストで紹介する本。ひとりのおじさんについて、だいたい4ページ。お洒落なおじさんを紹介するだけだろう、そう思って読み進めた。ところが、想像していたおじさんたちと、少し違う。フランスは奥深い。

 素直な好奇心を持つ著者と、知見のあるガイド役のおじさんのコンビネーションがいい。テロや難民の話にも触れていて、ちょっと考えさせられる。おじさんを入口に、こんな本ができるなんて。

 だんだん、普通のおじさんの何気ないひとことが心に響いてくる。

 そんな、重みのあることが言えるようになりたいものだ。

 デザインは寄藤文平氏+吉田孝宏氏。


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by robinsonfactory | 2017-11-10 22:36 | Comments(0)
あるノルウェーの大工の日記

『あるノルウェーの大工の日記』(オーレ・トシュテンセン)

 海外文学のコーナー、面出しされた、少しだけ小さな本。

 やや薄く色のついたカバー。幅広の白い帯。

 日本語のタイトル文字、ハンドドリルと物差しのイラスト、そしてノルウェー語のタイトルすべてが濃いブルー。

 太くないゴシックで組まれた日本語の、文字と文字の空きが絶妙。

 カバーの紙の、ざわっとした質感の良さ。

 帯を外してみる。表紙の一番上にあるノルウェー語のタイトルと、同一円周上で、一番下にノルウェー語での著者名を配置してあるのがわかる。そして、真ん中に二人用ノコギリのイラスト。

 センスのいい、大人なデザイン。

 ほかに工具のイラストはないのか探してみると、カバーの表4に折尺、カバーを外すとかなづちが出てきた。


 丁寧に書かれたベテラン大工の仕事の話は、ときに専門的なのに図解がなくて要領を得ない。でも、語り口がよく楽しいから、いいよ、先を続けてという気分になる。

 ずっと持っていたい本。

 デザインは水戸部功氏。


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by robinsonfactory | 2017-11-03 10:20 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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