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モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子)

 本の天近くまで覆う大きな帯。タイトル、著者名、紹介文、必要な情報がすべて入っている。

 外して気づく。これは帯ではない。少し小さいカバーだ。

 上にわずかに見えていた緑は、フランス装の表紙に印刷された山の写真。カバーをすべて取ると、密生する木々の間に、突如街が現れた。


 「旅する本屋」とは、本の行商をしていた人たちのこと。イタリア、ヴェネツィアの古書店で、その存在を知った著者は、案内を請い山奥のモンテレッジォへ向かう。そこは住む人が少なくなり、時が止まったような村。かつては71人が本売りを職業とし、イタリアの各地へ本を運んでいたという。

 本を待つ大勢の人がいた時代。

 著者といっしょになって、少しずつ行商の背景を明らかにしていくドキドキ感がある。でもきっと、本が好きな人にしか伝わらない世界なのだろう。本好きというのは、いまや希少な人種なのだろうから。


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by robinsonfactory | 2018-07-20 17:13 | Comments(0)
アイリーンはもういない

『アイリーンはもういない』(オテッサ・モシュフェグ)

 愛される人がいる。泣いても怒っても、失敗しても許されてしまう人。

 一方で、誰からも気にされない人もいる。たぶん、こっちの方が多い。


 アイリーンは気にされない。いてもいなくてもわからない。

 本人はそう思っている。

 そんな彼女の前に、愛される同僚が現れる。奇妙なことに、アイリーンを気にかける。

 

 悪意に満ちた世界。

 アイリーンはそう感じている。だから、読んでいて気が抜けない。同僚の真意はなんだろう。


 老齢になったアイリーンが、若いときのことを語る形になっている。

 その年まで、彼女は無事なのだ。

 さまざな経験を重ね、冷静に若い自分を見つめている。

 でも、どうやって嫌悪している自分から抜け出したのだろう。


 肝心なところは語られない。

 いまいる場所から逃げ出せば、すべてが一新されると言っているようにも読める。 

 どこにいても、自分自身が変わらなければ、周りも変わらない。

 年をとる過程で、アイリーンはそのことに気づいたのだろうか。


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by robinsonfactory | 2018-06-15 18:44 | Comments(0)
地下鉄道

『地下鉄道』(コルソン・ホワイトヘッド)

 最初に見たのは、雑誌の記事。著者のインタビューとともに、本の写真が掲載されていた。まだ翻訳本が出る前だったと思う。オリジナルの英語の本は、鮮やかで、とても印象的な表紙だった。

 それから間もなく、書店でほぼ同じデザインの翻訳本を見つけた。

 布に印刷したようなムラのある朱色。白で縁取りされたトンネルの中に線路が描かれている。タイトルから地下鉄だとわかるが、どこにも車両はない。迷路のように見える線路の途中に、逃げる黒人女性のイラスト。離れた場所にマスケット銃を抱えた男。トンネルの先端にスコップ。これだけで物語のアウトラインが見える。

 奴隷制という残酷な史実に、大胆な空想を織り交ぜた、ハラハラする娯楽小説。人種問題がからんでくると、単純に楽しんでいいのかと踏みとどまる気持ちがよぎるが、深く考えずに小説の世界に浸った方がいいのだろう。表紙を眺めていると、ボードゲームに見えてくるし、ストーリーには「ふりだしに戻る」ような展開もあるのだから。

 オリジナルのデザインはOliver Munday。


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by robinsonfactory | 2018-06-06 18:40 | Comments(0)
ヤングスキンズ

『ヤングスキンズ』(コリン・バレット)

 なぜこのカバーイラストの本を手に取ったのか覚えていない。好みとは違うなと思いながら、レジに持っていったのは覚えている。

 7つの短編、アイルランドの地方都市に生きる若者の話。

 ちょっと暴力の匂いがしたり、本当に暴力をふるったり、心を傷つけるものだったり。どこにも行けない閉塞感が漂っている。その中に、ときおり繊細さが顔を出す。著者自身の気持ちが自然と溢れたのか、それとも巧妙に計算されているのか。いずれにしても、忘れがたい世界に変わりはない。

 カバーは、ヤングアダルトに届くイラストなのかもしれないが、間口を狭くしていないかと心配になる。


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by robinsonfactory | 2018-05-17 22:22 | Comments(0)
そしてミランダを殺す

『そしてミランダを殺す』(ピーター・スワンソン)

 はじめのうち、凡庸な小説だと思ってしまった。しかし、読み進めるうち、それは徐々に変わっていき、やがて決定的に何か違うものだと知る。その後は「この展開、予想できるはずがない!」という帯のコピーを実感していた。

 章ごとに、違う人物のモノローグが続く。同じできごとが、異なる姿を見せる。その度に、語る人物に気持ちがすっと入っていく。

 人殺しの話だけど、それが悪に思えない。不思議な魔術にかかってしまった。

 

 カバーのタイトル文字は、ちょっと変わった組み方をしている。文字と文字を縦横に結ぶ細い線は、登場人物たちの関係を暗示しているのか。いや、関係ないかな。


 カバーデザインは鈴木久美氏。


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by robinsonfactory | 2018-05-11 20:07 | Comments(0)
外の世界

『外の世界』(ホルヘ・フランコ)

 なんともとらえどころのない小説、という印象。

 カバーに使われているルネ・マグリットの「深淵の花」にしても、細部から全体まで不思議さに満ちていて、いろいろ想像していくと、とりとめなくなってしまう。曖昧なまま落ち着かないので、誰かに解釈を頼みたくなる。そんな読後感。

 いくつかの時代をバラバラに語っているが、混乱はなく、ストレスも感じない。退屈を感じる隙もない。

 でも、誰の気持ちも、うまく理解できない。薄いフィルターを通して見ているようで、はっきりしない。とらえどころのなさは、きっとここにある。

 遠くで叫んでいる姿が見えるのに、声が聞こえない。読み取れない自分がもどかしい。


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by robinsonfactory | 2018-04-27 17:43 | Comments(0)
蔵書一代

『蔵書一代』(紀田順一郎)

 昭和の初期に造られたと思われる、木製の書棚を所有している。古道具屋で購入したもので、棚を固定するための楔がアクセントになっていて、壁際にポツンとあるだけで、部屋の印象が引き締まる。

 この本棚が最初に置かれた場所は、きっと和室の畳の上だろう。腰高の小さなものなので、四畳半かもしれない。隣には文机が似合う。

 4段すべてに本を詰めても、100冊程度しか収納できない。たった100冊。けれども、厳選されたわずかな本だけを身の回りに置く生活は、とても豊かで確かなもののように思える。


 紀田順一郎氏は、年齢からくる状況の変化で、3万冊の本を処分したという。


 ぼくにとって、本当に必要な本はどれだろう。


 『蔵書一代』のカバーに描かれた本の絵は、端からぱらぱらと崩れ落ちている。地味な色合いは、古くなった本のようだ。やがて、本はこうして消えていくのだと、暗示しているのか。カバーを取って表紙を見ると、格子状の太い線が目眩を起こさせる。本の行く末を考えクラクラする。


 装丁は安藤紫野氏。


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by robinsonfactory | 2018-04-15 12:04 | Comments(0)
オンブレ

『オンブレ』(エルモア・レナード)

 最初に読んだレナードの本は「グリッツ」で、何十年も前のことだ。その当時は、まだレナードの文庫本が何冊も書店に並んでいたから、次の1冊を手にするのが楽しみだった。

 いつの間にかレナードの本を見かけなくなり、古書店で探しても、持っている本ばかりで、人生の楽しみがひとつ消えていくのを感じていた。

 昨年末『ラブラバ』が新訳で出たけれど、すでに旧訳の方を読んでいたので、気持ちの高ぶりはなかった。

 ところが、このたび。

 本当の新刊だ。村上春樹訳、なんと西部小説。

 期待していたものと少し違ったが、先が見えなくて面白い。どちらかというと、併録された「三時十分発ユマ行き」の方が、ぼくはレナードらしさを感じた。「本人も知らなかったが、実はすごい男」という人物と、それを間近で見て驚く悪党との微妙な関係の変化が、わくわくする物語の始まりを予感させるのだが、とっても短い話で、渇望感が増してしまった。

 エルモア・レナードの本が、これからも訳され続けることを、星に願う。


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by robinsonfactory | 2018-04-08 10:13 | Comments(0)
飛田ホテル

『飛田ホテル』(黒岩重吾)

 昭和な雰囲気のカバー。書体とイラスト、黒とピンクと。

 昭和30年代に書かれた短編6本。舞台はもちろん、作者の感覚も当時のものだから、いまからするとだいぶ古く感じられる。大衆小説として、あえて欲情的な描写を入れたのだろうから、社会の底辺にいる人たちの生活を活写するのとは違う。

 でも、ちくま文庫で復刊となれば、アカデミックな部分を探してしまうもの。アルサロ、アルバイトサロンなんて言葉は知らなかったので、勉強にはなったけれど。

 カバーデザインに惹かれて手に取った本は、よく見ると、かすかに劇画の匂いもする。娯楽として気楽に読めばいいのだろう。でも、どうしても古き悪しき時代を感じてしまうのだ。

 カバーイラストは西川真以子氏。デザインはアルビレオ。


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by robinsonfactory | 2018-03-27 18:24 | Comments(0)
異形の愛

『異形の愛』(キャサリン・ダン)

 最後まで、この小説にどう向き合っていいのかわからなかった。

 巡業サーカスで生きる、ある家族の話。母親は、かつて鶏の頭を食いちぎるギークとして活躍し、団長とパートナーになると、奇妙な子供たちを産み出す。サーカスで生きていくために必要な、最高のプレゼントとして、奇形の身体を持つ子らを。

 物語は、その中の1人の娘が語っていく。彼女は、妊娠中に毒物を服用した母の努力の甲斐もむなしく、アルビノでせむしだけの平凡な奇形。そのことを恥じ、スターである、手足がヒレのようについている兄を慕い、ひとつの身体を共有する美しい双子を羨む。一方、五体満足な普通の人を蔑む。

 立ち位置が、普通の世界と逆で、なかなか馴染めない。この物語の世界を受け入れるということは、作中登場する、自分の手足を切り落とす信者たちをも受容することになるわけで、そこまで心は広くなれない。

 ただ、グロテスクに徹しないで、理解できないにしても愛が流れているからこそ、最後まで読み続けられる。

 怖いもの見たさのフリークショーの、禍々しさを想起させる中に、美しさをこめた装丁が印象的。

 装丁は木庭貴信氏+岩元萌氏。


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by robinsonfactory | 2018-03-26 22:47 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
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