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蔵書一代

『蔵書一代』(紀田順一郎)

 昭和の初期に造られたと思われる、木製の書棚を所有している。古道具屋で購入したもので、棚を固定するための楔がアクセントになっていて、壁際にポツンとあるだけで、部屋の印象が引き締まる。

 この本棚が最初に置かれた場所は、きっと和室の畳の上だろう。腰高の小さなものなので、四畳半かもしれない。隣には文机が似合う。

 4段すべてに本を詰めても、100冊程度しか収納できない。たった100冊。けれども、厳選されたわずかな本だけを身の回りに置く生活は、とても豊かで確かなもののように思える。


 紀田順一郎氏は、年齢からくる状況の変化で、3万冊の本を処分したという。


 ぼくにとって、本当に必要な本はどれだろう。


 『蔵書一代』のカバーに描かれた本の絵は、端からぱらぱらと崩れ落ちている。地味な色合いは、古くなった本のようだ。やがて、本はこうして消えていくのだと、暗示しているのか。カバーを取って表紙を見ると、格子状の太い線が目眩を起こさせる。本の行く末を考えクラクラする。


 装丁は安藤紫野氏。


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by robinsonfactory | 2018-04-15 12:04 | Comments(0)
オンブレ

『オンブレ』(エルモア・レナード)

 最初に読んだレナードの本は「グリッツ」で、何十年も前のことだ。その当時は、まだレナードの文庫本が何冊も書店に並んでいたから、次の1冊を手にするのが楽しみだった。

 いつの間にかレナードの本を見かけなくなり、古書店で探しても、持っている本ばかりで、人生の楽しみがひとつ消えていくのを感じていた。

 昨年末『ラブラバ』の新訳で出たけれど、すでに旧訳の方を読んでいたので、気持ちの高ぶりはなかった。

 ところが、このたび。

 本当の新刊だ。村上春樹訳、なんと西部小説。

 期待していたものと少し違ったが、先が見えなくて面白い。どちらかというと、併録された「三時十分発ユマ行き」の方が、ぼくはレナードらしさを感じた。「本人も知らなかったが、実はすごい男」という人物と、それを間近で見て驚く悪党との微妙な関係の変化が、わくわくする物語の始まりを予感させるのだが、とっても短い話で、渇望感が増してしまった。

 エルモア・レナードの本が、これからも訳され続けることを、星に願う。


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by robinsonfactory | 2018-04-08 10:13 | Comments(0)
飛田ホテル

『飛田ホテル』(黒岩重吾)

 昭和な雰囲気のカバー。書体とイラスト、黒とピンクと。

 昭和30年代に書かれた短編6本。舞台はもちろん、作者の感覚も当時のものだから、いまからするとだいぶ古く感じられる。大衆小説として、あえて欲情的な描写を入れたのだろうから、社会の底辺にいる人たちの生活を活写するのとは違う。

 でも、ちくま文庫で復刊となれば、アカデミックな部分を探してしまうもの。アルサロ、アルバイトサロンなんて言葉は知らなかったので、勉強にはなったけれど。

 カバーデザインに惹かれて手に取った本は、よく見ると、かすかに劇画の匂いもする。娯楽として気楽に読めばいいのだろう。でも、どうしても古き悪しき時代を感じてしまうのだ。

 カバーイラストは西川真以子氏。デザインはアルビレオ。


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by robinsonfactory | 2018-03-27 18:24 | Comments(0)
異形の愛

『異形の愛』(キャサリン・ダン)

 最後まで、この小説にどう向き合っていいのかわからなかった。

 巡業サーカスで生きる、ある家族の話。母親は、かつて鶏の頭を食いちぎるギークとして活躍し、団長とパートナーになると、奇妙な子供たちを産み出す。サーカスで生きていくために必要な、最高のプレゼントとして、奇形の身体を持つ子らを。

 物語は、その中の1人の娘が語っていく。彼女は、妊娠中に毒物を服用した母の努力の甲斐もむなしく、アルビノでせむしだけの平凡な奇形。そのことを恥じ、スターである、手足がヒレのようについている兄を慕い、ひとつの身体を共有する美しい双子を羨む。一方、五体満足な普通の人を蔑む。

 立ち位置が、普通の世界と逆で、なかなか馴染めない。この物語の世界を受け入れるということは、作中登場する、自分の手足を切り落とす信者たちをも受容することになるわけで、そこまで心は広くなれない。

 ただ、グロテスクに徹しないで、理解できないにしても愛が流れているからこそ、最後まで読み続けられる。

 怖いもの見たさのフリークショーの、禍々しさを想起させる中に、美しさをこめた装丁が印象的。

 装丁は木庭貴信氏+岩元萌氏。


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by robinsonfactory | 2018-03-26 22:47 | Comments(0)
卵を産めない郭公

『卵を産めない郭公』(ジョン・ニコルズ)

 こんなに酒ばかり飲む学生時代を過ごしていないし、プーキーのような変な女の子と付き合ったこともない。著者の実体験を綴ったような、細かい箇所がときどき妙に具体的な小説。だらだらした生活で、感情移入できるところもない。

 でも、行き詰まってどうしようもない人との関係が、毎日の生活の中で大きなウエイトを占めていたのは、若い時の方が多かったなと思い出す。

 きっと村上春樹訳がとてもいいのだろう。50年も前の世界だと意識することがなく、いまの空気感で読めるのは。


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by robinsonfactory | 2018-02-23 18:37 | Comments(0)
剃髪式

『剃髪式』(ボフミル・フラバル)

 石油ランプの丁寧な描写が続き、このままビール醸造所の静かな生活が描かれていくのだろう、穏やかな気持ちにさせる小説。と思っていたら、とんでもなかった。

 これどこまで本当? 小説に向けてする質問ではないが、はじけすぎて想像が追いつかない。だんだん馴れてくると、いくらか余裕を持って楽しめるけれど、さらに上をいく出来事が。

 150ページほどの薄い本のなか、何度も気持ちが動かされる。最後は、これで終わってしまうのか、やっとわかってきたところなのに。ちょっと心残りなので、もう一度最初から読み直してみる。

 幸いなことに、フラバルの本は、ほかにも新刊で手に入りそうだ。


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by robinsonfactory | 2018-02-08 19:43 | Comments(0)
東の果て、夜へ

『東の果て、夜へ』(ビル・ビバリー)

 帯を外してカバーを眺める。赤い文字で惹句がびっしり詰まった帯は目に痛く、外すと一気に静寂が訪れた。

 誰もいないガソリンスタンドの写真。手前の道路が白く見えるのは靄か、雪か。奥の山の斜面も白いので、雪だ。

 地元のスタンドというより、どこか見知らぬ土地に来た気分。左右いっぱいに広がった「夜へ」「果て、」「東の」の文字が、まだ旅の途中という思いにさせる。

 少年たちの奇妙な旅。これから人を殺しに行くという。不安定な人間関係と、心もとない情報。案の定、トラブルだ。

 人生に疲れ果てた大人のような1人の少年は、ときおり子どもっぽさを露呈する。この小説に希望が見える気がするのは、その一瞬だ。

 何度カバーを見ても、そのたび「夜へ果て東の」と読んでしまうので、最後までタイトルを正確に覚えられずにいたが、この本のことは忘れずにいよう。ほぼ完璧な小説なのだから。

 デザインは鈴木久美氏。


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by robinsonfactory | 2018-01-29 20:33 | Comments(0)
天国の南

『天国の南』(ジム・トンプスン)

 表紙のモノクロ写真は、古い映画の一場面のようだ。銀色の英文字は、角度によっては光って見えにくくなるので、一瞬、劣化した、本当に古い本だと感じてしまう。

 でも、ジム・トンプスンの新刊。古書店でなく、新刊書店で見つけたのに、いまこの作家の本が新しく出版されたのが信じがたく、古本を手に取るような気分だった。

 読み進めていくうちに、これは個性的な犯罪者の物語ではないのだとわかってくる。想像していた世界と違う。ぶっきらぼうな中に、ときおり、真っすぐな気持ちが見えてくる。まるで21歳そのままの文章。

 ジム・トンプスンは、こんな物語も書いていたのか。

 軽い造本もいい。膝を立てて床に座り、片手で本を開く、そんな格好がきっと似合う。

 写真はドロシア・ラング、装丁は黒洲零氏。


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by robinsonfactory | 2018-01-19 20:18 | Comments(0)
ストーナー

『ストーナー』(ジョン・ウィリアムズ)

 空気が感じられる。かすかな匂いがある。それはたぶん自分が好きなものだ。たとえば書店。和紙専門店。

 心地よい香りが、いつのまにか気分をリラックスさせているように、気づくと、心の中に小説の世界が入ってきている。

 この小説は、語り続けなくてはいけない。書店はこの本を常備すべきだ。

 カバーの紙の手触り、そこにかすかに見える、本の形をしたオブジェ、タイトル文字の凹凸、その深い墨。すべてが忘れがたい、大切なものとして記憶される。

 装丁は水崎真奈美氏。


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by robinsonfactory | 2017-12-23 10:20 | Comments(0)
日本の悪霊

『日本の悪霊』(高橋和巳)

 なぜ、いま高橋和巳を読もうとしたのか。それは河出文庫の装丁のせいだ。

 上半分にモノクロ写真、中央に白抜きの太い明朝でタイトルと著者名。シンプルでありながら、森山大道氏のブレた写真が疾走感を生み、タイトルと相まってノンフィクションのような硬さと緊張感を醸し出している。

 文章は濃厚だ。

 舞台は1960年代。刑事と犯罪者の心理が丁寧に綴られる。一見ミステリーのようだが、謎解きに主眼をおいていないことは、だんだんわかってくる。ただただ2人の空気が重く息苦しい。これは時代によるのか、それとも人間は常にストレスを抱えてしまうものなのか。たとえ社会が変化しても。

 デザインは岩瀬聡氏。


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by robinsonfactory | 2017-12-16 12:19 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
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