カテゴリ:本( 131 )
橋の上の天使

ジョン・チーヴァー『橋の上の天使』


 雑誌『モンキー』vol.15に、ジョン・チーヴァーの短編が6本掲載されていた。

 初めて読んだジョン・チーヴァーは、想像していたより面白かった。もっと読みたいと手に取った『橋の上の天使』、実は何年も前に古書店で買ったものだ。


 15本の短編があり、そのうち半分くらいが好みの小説。

 何かが起こりそうな、かすかな緊張感があって、本当に何か事件が起こってしまうと、もとの生活に戻れなくなってしまう感覚が、読後しばらく続く。

 そんな中、表題の『橋の上の天使』は、ホッとする。一番最後に入っていて、とても短いのだが、それまでの14編で凝ってしまった身体をほぐしてくれるようだ。


 作中の天使は女性で、表紙に描かれている男性とは、イメージが違う。

 1992年刊行の本で、それほど古くはない。しかし写植からDTPへと、変化の激しい時代に取り残されたようなデザインの表紙、という印象はある。

 文字の詰め方は、とっても好きだけれども。


 装丁は渡辺和雄氏、装画は宮いつき氏。


 村上春樹氏訳のジョン・チーヴァーの新刊が出るようで、装丁ともに楽しみ。


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by robinsonfactory | 2018-11-02 19:05 | | Comments(0)
日が沈むのを

野呂邦暢『日が沈むのを』


 野呂邦暢小説集成2。

 1巻目と表紙の印象が似ているが、よく見ると少し違う。

 絵が異なるだけでなく、刷り色も微妙に違う。どちらも特色を2色だけ使っていて、その組み合わせが同じではないのだ。

 カバーの紙は薄く、丁寧に扱わないと破いてしまいそうだ。

 野呂邦暢の文章に似て繊細な本。


 本文の行間がわりと広い。

 同じ判型のほかの本より、1ページの行数が5行くらい少ない。

 総ページ数が600に近い厚い本。行間を詰めて薄くせず、この厚さを保つようにしたのかもしれない。

 馴れないと、この行間の白地に目がいってしまい、読書の呼吸が乱れる。

 でも、ときにこの間に意味があるように感じる文章がある。


「今なにをして生活しているんだ」


「あそんでいます」


「ひとり」


「ええ」

 (『日常』から抜粋)


 会話の間に、表情の変化があり、身体の動きも想像される。

 野呂邦暢を読む楽しさの、ひとつかもしれない。(2018)


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by robinsonfactory | 2018-10-23 18:56 | | Comments(0)
旅路

藤原てい『旅路』


 表紙には、茶褐色に変色した轍の写真。

 緩く曲がりながら伸びていく道の先に、小さく写る女性の姿。


 そこから浮かぶイメージは、むかしの話、苦労を重ねた半生、振り返る余裕の生まれた幸せな現在。

 その程度のことしか想像できない。

 ところが、230ページほどの薄い文庫本には、壮絶な体験が綴られていた。

 敗戦後、満州から引き揚げる際の、混乱した状況。

 命からがらとは、このことを言うのだろう。

 月並みな感想だが、いまこの瞬間生きていることに感謝しつつ、できることは精一杯やろうと思う。

 カバーデザインは山影麻奈氏。(2018)



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by robinsonfactory | 2018-10-13 22:38 | | Comments(0)
接触

クレア・ノース『接触』


 『ハリー・オーガスト、15回目の人生』と同じ角川文庫から出ているのに、カバーのイラストレーターが違っている。

 どうしてだろう。

 ずっと疑問に思っていたが、調べてみると、いつの間にか『ハリー・オーガスト』のイラストとデザインの方が、『接触』に合わせて変わっていた。

 なぜだろう。

 kindle版の表紙と区別するため? ものすごく気になる。


 『接触』のイラストが違っているのは、小説の雰囲気を表すためだろうと想像していた。


 一瞬の接触で、相手の身体に乗り移ることができるゴースト。どんな人物にもなれるが、自身の肉体を持たない。つまり、帰るところがない。

 望めば、若い身体に移ることで、永遠に生きられる。苦手なことから、永遠に逃げ続けられる。

 ゴーストのこの生態を羨ましく思ったりはしない。むしろ、行き場のない閉塞感に包まれる。

 この感じ、『ハリー・オーガスト』の感触に似ている。

 

 ゴーストは、男にも女にもなれる。性を飛び越え、どちらも愛せる。

 それゆえ、カバーのイラストに漂う、ボーイズラブの匂いに納得したのだった。


 イラストはRe゜。

 デザインは西村弘美氏。



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by robinsonfactory | 2018-10-01 22:33 | | Comments(0)
誰もいないホテルで

ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』


 表紙の絵を見ていると、とても穏やかで静かな世界を想像する。

 牧草地に、ところどころ茂る木々、かすかに見える湖、遥か先に連なる山。

 人々が散歩している。

 親子、恋人、仲間たち、犬を連れている人や、乳母車を押す母親。

 

 この平和な絵に描かれた人たちが、物語を読み進めるうちに、ささやき出す。

 

 10の短編は、書き手が異なっているのではと思うほど、雰囲気を変える。

 似ているのは、どれも危うい縁に立たされている感じがすること。

 異質な世界に手を引かれながらも、なんとか現実の世界に踏みとどまる。


 言ってはいけなかったひとこと、持たなければ良かった感情。意識せず、うっかり足を踏み入れてしまう場所はある。


 緑豊かな心和む風景の中で、表紙の恋人たちは口論をしているのかもしれない。


 イラストは矢吹申彦氏。(2018)



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by robinsonfactory | 2018-09-21 18:32 | | Comments(0)
ブッチャーズ・クロッシング

『ブッチャーズ・クロッシング』(ジョン・ウィリアムズ)


 この本を読んだ人たちが集まり、感想を話し合ったとする。

 好きな箇所、嫌いな場面、疑問に感じるところ、それぞれが思うことをあげていくと、いつの間にか小説全体が語られてしまう。

 そんな小説ではないだろうか。

 駅馬車、埃っぽい町、アンドリューズの成長、武骨なミラー、残酷で過酷な経験。心に残るシーンは多い。

 小さなことに、命が吹き込まれているからだ。丁寧に積み重ねていくと、やがてとても大きな波となり、忘れられない読書となる。



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by robinsonfactory | 2018-09-09 10:58 | | Comments(0)
ジム・トンプスン

 文遊社から出ているジム・トンプスンの本が、『犯罪者』で4冊目になりました。

 それまで銀色を基調にしていたカバーが、今回は黒。何かの節目のように見えます。

 紙が微妙に変わったり、書体が少し違っていたりしますが、全体のトーンは似ています。天地50ミリの細い帯はすべて銀色で、背の「本邦初訳」は一緒。

 4冊を並べてみると、あれ、帯の文字がずれている。「本邦初訳」がすべて右側に寄っているのです。

 その理由はすぐにわかります。

 背には、日本語タイトルと英語のタイトルが並んで入っています。その両方の文字の幅全体が、背の中央にくるように配置してあります。そのため、日本語タイトルはやや右に寄っていて、帯の「本邦初訳」は日本語に合わせているからです。

 帯を取るとどうなるかというと、キャッチコピーの「本邦初訳」はなくなり、社名の文遊社が縦に入っているだけで、これも右に寄っています。

 これは仕方がないのでしょうか。

 文遊社が横組だったら、背の中央に配置できたでしょう。もしかしたら縦組という決まりなのかもしれません。そこでジム・トンプスン以外の本を調べると、やはり背文字の文遊社は縦組でした。

 とても細かく、どうでもいいことです。

 それとも、細かいところが気になるように、あえてずらして配置した策略なのでしょうか。


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by robinsonfactory | 2018-08-14 18:32 | | Comments(0)
いとしの印刷ボーイズ

『いとしの印刷ボーイズ』(奈良裕己)

 漫画です。

 勉強になることがたくさんあります。


 フリーになる前、月刊誌を作っていたときは、毎月、出張校正で印刷会社へお邪魔をしました。

 従業員の休憩室として使っている部屋で、校正紙が出るのを待っていると、たまたまそこに居合わせた人が、気を遣ってお茶を入れ替えてくれました。

 先方の仕事を急かすのに、こちらの作業は待ってもらう。仕事だからしかたがないとはいえ、迷惑だったでしょう。それだけに、お客様として丁重にもてなされるのを申し訳なく思っていました。でもさらに申し訳なかったのは、その段階になってなお、修正をたくさん入れてしまうことでした。

 「ええ、こんなに。勘弁してくださいよ」営業の人の顔が忘れられません。


 そんな昔のことを思い出す、印刷会社を舞台にした漫画。

 たぶん、いまとてもお世話になっているのは、現場のDTPオペレーターの方々です。直接のやりとりは基本的にはありません。

 ぼくが送ったデータをチェックして、問題があれば直して出力してくれています。後でそのことに気づくこともあるし、まったく気づいていないミスも、きっとたくさんあるはずです。

 ありがとうございます。

 そんな感謝の気持ちが溢れ出す、印刷会社を舞台にした漫画。


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by robinsonfactory | 2018-08-09 16:14 | | Comments(0)
モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(内田洋子)

 本の天近くまで覆う大きな帯。タイトル、著者名、紹介文、必要な情報がすべて入っている。

 外して気づく。これは帯ではない。少し小さいカバーだ。

 上にわずかに見えていた緑は、フランス装の表紙に印刷された山の写真。カバーをすべて取ると、密生する木々の間に、突如街が現れた。


 「旅する本屋」とは、本の行商をしていた人たちのこと。イタリア、ヴェネツィアの古書店で、その存在を知った著者は、案内を請い山奥のモンテレッジォへ向かう。そこは住む人が少なくなり、時が止まったような村。かつては71人が本売りを職業とし、イタリアの各地へ本を運んでいたという。

 本を待つ大勢の人がいた時代。

 著者といっしょになって、少しずつ行商の背景を明らかにしていくドキドキ感がある。でもきっと、本が好きな人にしか伝わらない世界なのだろう。本好きというのは、いまや希少な人種なのだろうから。


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by robinsonfactory | 2018-07-20 17:13 | | Comments(0)
アイリーンはもういない

『アイリーンはもういない』(オテッサ・モシュフェグ)

 愛される人がいる。泣いても怒っても、失敗しても許されてしまう人。

 一方で、誰からも気にされない人もいる。たぶん、こっちの方が多い。


 アイリーンは気にされない。いてもいなくてもわからない。

 本人はそう思っている。

 そんな彼女の前に、愛される同僚が現れる。奇妙なことに、アイリーンを気にかける。

 

 悪意に満ちた世界。

 アイリーンはそう感じている。だから、読んでいて気が抜けない。同僚の真意はなんだろう。


 老齢になったアイリーンが、若いときのことを語る形になっている。

 その年まで、彼女は無事なのだ。

 さまざな経験を重ね、冷静に若い自分を見つめている。

 でも、どうやって嫌悪している自分から抜け出したのだろう。


 肝心なところは語られない。

 いまいる場所から逃げ出せば、すべてが一新されると言っているようにも読める。 

 どこにいても、自分自身が変わらなければ、周りも変わらない。

 年をとる過程で、アイリーンはそのことに気づいたのだろうか。


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by robinsonfactory | 2018-06-15 18:44 | | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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