カテゴリ:本( 95 )
戦地の図書館

『戦地の図書館』(モリー・グプティル・マニング著)

 表紙には、ひとりの兵士が塹壕の中で本を読んでいる写真。リラックスした表情は、まるでカウチに横になっているかのようだ。でもこれは、第二次世界大戦時のアメリカ軍兵士の姿。

 戦場で本を読むのか? 命が危険にさらされている状況下で、本を開く余裕なんてあるのか? 荷物になる本を持っていくのか? 

 文中には、戦闘中、上空を砲弾が飛び交い、じめじめした塹壕から出るに出られず、懐中電灯の灯りで本を読んでいたという兵士の話も出てくる。

 本があることで、なぐさめになり、士気を高揚させることにもなったという。

 殺し合わなくてはならない状況というのは、想像するだけでもつらい。本を読んでいる束の間、悪魔でも虫けらでもない、普通の人間として過ごせたのだろうか。

 装丁は中村聡氏。


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by robinsonfactory | 2017-02-16 19:10 | | Comments(0)
奇妙という名の五人兄妹

 書店でターコイズブルーの表紙を見たとき、『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の著者の最新作だとわかった。

 アンドリュー・カウフマンの『奇妙という名の五人兄妹』。

 ところが、2冊を並べてみると、似ているようで似ていない。タイトルの書体が違うし、加工のしかたも異なる。前作『銀行強盗~』よりはるかに、タイトル文字を壊し、遊んでいる。同じなのは、使用している紙くらいなもの。それなのに、こうも印象が近くなるとは。もしも何も印刷しないで、同じ紙で刷り色だけを変えていったら、同一シリーズの本と認識されるのだろうか。

 

 「奇妙な」という名前は、書類のちょっとした間違いからで、元からいわくつきな一族だったわけではない。そのちょっとした感は、兄妹たちが持つ不思議な力、祖母の魔女的な雰囲気、死んだ父の影を追いかけることなどにまとわりついてきて、歯切れの悪さがある。

 次回作に期待しよう。今度はどんな色の表紙になるのだろう。

 装丁は森田恭行氏。


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by robinsonfactory | 2017-02-08 23:21 | | Comments(0)
満ちみてる生

 ジョン・ファンテの『満ちみてる生』。

 書店の棚で、背を見せている本を手に取り、表紙を眺めた。モノクロの写真一枚。すり減った石畳の路地、石造りの家。壁の一部をはがして、地面からパイプが家の中に引きこまれている。それを子どもが一人見ている。半ズボンにサンダル。ドアの前、一段高くなった石の上に座って。顔が奥を向いているので表情はわからない。

 場所はどこだろう。ヨーロッパだろうか。

 著者略歴を読む。そうだ、ジョン・ファンテ、『塵に訊け!』の著者だ。すっかり名前を忘れていた上に、表紙の雰囲気が、前回読んだときの印象と結びつかなかった。30年も前に亡くなっている作家なので、新しく翻訳が出るとも思っていなかった。

 奥付を見ると、まだ出版されて間もない。

 さらに略歴を読むと、最近ほかにも2冊、彼の本が出ているのがわかった。うっかりしていた。

 

 滑稽な、父との関係。臨月の妻も含めたドタバタしたやりとり。いつも、ひとりだけ悪者のように見られる歯痒さ。やがて子どもが産まれ、すべてを許し合えるような、寛大さに満ちたひととき。なんだかんだあっても、読後、幸福感に包まれる。


 表4にも写真が入っている。アメリカに住むイタリア系移民の話なので、きっとイタリアなのだろう。建物と建物の間にロープを渡し、通りの真ん中で洗濯物を干している。階段状の路地には、真ん中あたりから奥に向かって、人の姿が大勢見える。表紙の男の子は、きっとこの中のどこかにいる。写真はみやこうせい氏。



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by robinsonfactory | 2017-01-24 18:22 | | Comments(0)
図書館 愛書家の楽園

 本に囲まれた空間にいると、副交感神経が優位になって、次第に眠くなる。そこに座り心地のいいソファでもあれば、さらにリラックスして夢見心地。

 そんな気分を、読書をしながら味わえるのは幸せなこと。半覚醒の状態で目は字を追う。文章の意味は、頭の中で形を作っていくのだけれど、どうもぼんやりしてしまう。これは読書をしているのか、読書のフリなのか。

 『図書館 愛書家の楽園』(アルベルト・マングェル著)を読んでいると、そんな状態になってしまう。

 原題は『The Library at Night』。Libraryには、図書館だけでなく個人の蔵書という意味もある。著者は、膨大な蔵書の分類方法を、さまざまな図書館を参考にしつつ、探っていく。その思考の過程は、大量の本が周囲をぐるぐる飛び回っているかのような感覚。

 本が好きという人のなかには、本はあまり読まないけれど、本を並べ替えたり、それを夢想するのが好きという人も、きっと多い。そんな夢想家にぴったりの夢見る本。


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by robinsonfactory | 2016-12-29 11:45 | | Comments(0)
HERE

 子どもの頃に住んでいた家の記憶は、日常のささいな出来事とともに、いつまでも頭の中に残っている。建て替えたため、当時の家はもうないけれど、同じ場所に親が住んでいるので、訪ねたとき、当時の間取りを思い出すこともある。

 ここに家が建つ前は山だったらしい。そのとき、この山を上ってきた人はいたのだろうか。


 土地の記憶、建物の記憶、リビングの記憶、それを一枚の絵の中に表現する『HERE ヒア』(リチャード・マグワイア著)。いくつもの時代の層は、ページをめくるたび思いもよらない場面を見せる。

 丁寧に時代を追って見ていけば、登場する人たちの相関図が浮かんでくるかもしれない。

 厚くずっしりと重い本は、寝転がって読むには不向きだが、付録に中とじの薄いオリジナル版(1989年版)がついていて、これならソファに横になって見ていられる。付録には、オリジナルからさらに発展させた2000年版と、同じアイデアをもとにした『ニューヨーカー』の表紙もついている。意図してか、そうではないのか、本そのものの変遷も楽しめるのだ。


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by robinsonfactory | 2016-12-18 22:38 | | Comments(0)
京都

 黒川創の小説『京都』。

 古くてモダンな京都のイメージに重なる表紙。おもねることなく、ただ一人の道を邁進する、そんな街の姿が浮かぶ、平野甲賀氏の文字。

 著者の実体験をもとに書かれたかのような、濃密な街の描写。つくづく京都は特別なところなのだと思う。

 「にぎやかな東大路のひと筋西側を、鞠小路は南北に走っている」

 「家は、京都御所の北東、賀茂川西畔の出雲路にあった」

 こんな記述があると、地図を広げてみたくなる。

 四編の小説。どの主人公も、いままでの人生に対して後悔の念を抱いているようで、それもまた京都に似合っている気がする。


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by robinsonfactory | 2016-11-11 17:28 | | Comments(0)
未完成の友情

 ずいぶん長いこと書棚に入っているので、てっきり一度読んだと思っていた。ところが、最初の数ページを読んでみると覚えがない。まだ読んでいなかったのだ。そう思って読み進めると30ページほどいったところで、確かに記憶にある場面に遭遇した。やはり読んでいたのだ。それでもさらに進めると、うーん、やっぱり読んでないな、これは。

 佐藤洋二郎『未完成の友情』。

 いままで何度も手にとり、表紙を眺めていた。そのたび、少し読んだのかもしれない。消え入りそうなタイトルと、表紙の半分を占める帯に描かれた、公園らしきイラスト。緑の芝生の上に、リクライニングチェアがいくつも並んでいるが、人の姿はない。全体にとても寂しい雰囲気。

 帯を外すと、あっと驚くほど、さらに寂しくなってしまう。

 小説の雰囲気も、また寂しい。冒頭、少年時代から一緒に過ごしてきた友人が、亡くなったと連絡を受ける。老年期を迎える前の、少し早い死。そこから、複雑な生い立ち、垣間みてきた大人たちの苦渋が語られていく。

 突っ走ってきたけれど、結局人生なんにもないよ。そんな気にさせる。年をとることが、哀しく、寂しいことであるかのように。できることなら、少しくらい希望がほしい。


 装丁は緒方修一氏。装画は吉實恵氏。


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by robinsonfactory | 2016-09-22 10:54 | | Comments(0)
に・褒められたくて

 ながさわたかひろ『に・褒められたくて』。

 自分の好きな人に突然会いに行き、あなたの絵を描かせてくださいとお願いして写真を撮る。後日また会いに行って、絵にサインとコメントを書いてもらう。銅版画やリトグラフなので、一部を本人にあげ、サインをもらった方は自分が受け取る。

 この行為だけをみると、とても変な人。まず一方的。そして、仕上がった版画は、描かれた人のダークサイドを表出させているようにも見える。会いに行った人たちは有名人なので、たぶん訝しみながらも丁寧に応対できるのだろう。

 でも。著者は、会いに行った人たちを、心から敬愛しているのだ。いろいろな意味で真似ができないが、その純粋な敬慕する心は、本当に真似ができない。

 30人、どの絵も好きだが、とくにケラさんがいい。くわえた煙草の先に、ケラさんが紫煙を落書きのように描き込んでいて、やった! 合作だ! 


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by robinsonfactory | 2016-09-08 18:28 | | Comments(0)
漂うままに島に着き

 内澤旬子さんの新刊「漂うままに島に着き」。

 書店に平積みされた本は、帯が1.5ミリほど背の方へずれていた。気になって下にある本を調べると、全部同じ。タイトルと著者名が帯にかかっているため、ずれがより目立つ。可哀想な表紙だ。

 家に持って帰り(購入して)寸法を測ると、特に問題はない。単に折りがずれてしまっただけなのだ。

 

 内澤さんは小豆島へ移住したらしい。そういえば、どこかの雑誌でそんなことを読んだ覚えがある。職種は違うが、同じフリーランス。東京の仕事をしているのに、そんなに遠くへ行ってしまって大丈夫なのか。「じゃあ担当の編集者と実際に会ってます?」文中、内澤さんは同業の友人に尋ねる。すると、みなロクに会っていないことがわかる。だからといってね、ちょっとぼくには勇気がない。

 いいなあ、小豆島。なんて思いで読んでいくと、そうでもないかなと感じてくる。やっぱりぼくには地方移住なんてできそうにない。といっても、東京には住んでいないけれど。


 装丁は寄藤文平氏と阿津侑三氏(文平銀座)。


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by robinsonfactory | 2016-08-31 22:02 | | Comments(0)
地上最後の刑事

 半年後に小惑星が衝突し、地球は壊滅するという状況の中、真面目に殺人事件の捜査をする刑事。ベン・H・ウィンタース『地上最後の刑事』。心惹かれる設定だ。

 ハヤカワ文庫の新刊だが、以前ポケミスから、三部作の一作目として出版されている。

 ポケミスの装丁は、白抜きのタイトルが目に飛び込んでくるシャープなデザインで、3冊揃えて持っていたくなる格好よさ。一方文庫の方は、装画が入り、絵の細部が気になって目が離せない。


 語り口の静かさ、文章の雰囲気はとても好きだが、時間を忘れて読みふけるほどではなかった。

 続編は、文庫で出たら読むかもしれない。でも、それも装丁次第。たぶん、タイトルの扱いは同じで、背景のイラストが変わるのだろう。それとも、まったく違う、さらに魅力的なデザインが現れるか。


 文庫のデザインは早川書房デザイン室、イラストは加藤健介氏。


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by robinsonfactory | 2016-08-12 09:38 | | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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