悲しみの港

『悲しみの港』(小川国夫)

 色とりどりのストライプの背が並ぶ棚。手に取ると、ちょっとずんぐりした感じのB6サイズ。小学館のP+D BOOKSというシリーズだ。

 年配の人向けの本なのか、そう思って開くと、若干文字組がゆったりしている。紙は、P+D(ペーパーバックとデジタル)の名の通りいい感じにチープさが漂い、ガシガシと読みたくなる造り。

 渋いラインナップの中から、まだ読んだことのない小川国夫を買ってみた。

 

 とても簡単にいうと、親のすねをかじりながら、小説を書いている青年の話。文学を生み出そうと苦しんでいるのに、周囲の人たちの温かいまなざしに鈍感で、青臭い。原稿がやっと雑誌に掲載されることになるが、原稿料は出ない。一度も働いたことがなさそうなのに、肉体労働ならできると思い込む。けれども身体は弱い。

 感情移入がまったくできない主人公。ただ、恋する女性の家に押しかけ求婚するものの、娘の父親に優しく諭され、無力なまま帰宅する、あまりに不器用な姿に同情する。

 最後は、苦しまぎれの明るさが、切ない。


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# by robinsonfactory | 2017-12-08 22:32 | Comments(0)
曲芸師のハンドブック

『曲芸師のハンドブック』(クレイグ・クレヴェンジャー)

 2008年に出版されたこの本は、いま新刊では手に入らない。クレイグ・クレヴェンジャーの著作も、翻訳されたものがほかには出ていない。なぜだ?

 本棚の奥にしまったまま、この本のことはずっと忘れていた。「発掘」して読んでみると、本当にこれはいい本を「発掘」したとわかった。いまさらながら。しかし、周りを見ると、この本は世間的には化石になっていたのだった。

 曲芸師の話ではないし、膝がありえない方向に曲がっている、表紙の男の話でもない。薬物中毒も、書類の偽造も些末なことだ。本筋は愛だ。この小説の中心には愛が流れている。

 秘密に気づいたとき、ページを戻して読み返してみると、そこここに愛の断片が見えてくる。


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# by robinsonfactory | 2017-11-25 10:11 | Comments(0)
パリのすてきなおじさん

『パリのすてきなおじさん』(金井真紀)

 書店で平積みになっている本を一冊取ると、下には別の本が。いや、よく見るとイラストが違う同じ本だ。帯の隅に、4つの帯デザインがあると記されている。でもその書店には2種類しかない。デザインが違うといっても、おじさんのイラストが異なるだけのようで、最初に手に取った本を購入した。

 パリでおじさんを蒐集し、イラストで紹介する本。ひとりのおじさんについて、だいたい4ページ。お洒落なおじさんを紹介するだけだろう、そう思って読み進めた。ところが、想像していたおじさんたちと、少し違う。フランスは奥深い。

 素直な好奇心を持つ著者と、知見のあるガイド役のおじさんのコンビネーションがいい。テロや難民の話にも触れていて、ちょっと考えさせられる。おじさんを入口に、こんな本ができるなんて。

 だんだん、普通のおじさんの何気ないひとことが心に響いてくる。

 そんな、重みのあることが言えるようになりたいものだ。

 デザインは寄藤文平氏+吉田孝宏氏。


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# by robinsonfactory | 2017-11-10 22:36 | Comments(0)
あるノルウェーの大工の日記

『あるノルウェーの大工の日記』(オーレ・トシュテンセン)

 海外文学のコーナー、面出しされた、少しだけ小さな本。

 やや薄く色のついたカバー。幅広の白い帯。

 日本語のタイトル文字、ハンドドリルと物差しのイラスト、そしてノルウェー語のタイトルすべてが濃いブルー。

 太くないゴシックで組まれた日本語の、文字と文字の空きが絶妙。

 カバーの紙の、ざわっとした質感の良さ。

 帯を外してみる。表紙の一番上にあるノルウェー語のタイトルと、同一円周上で、一番下にノルウェー語での著者名を配置してあるのがわかる。そして、真ん中に二人用ノコギリのイラスト。

 センスのいい、大人なデザイン。

 ほかに工具のイラストはないのか探してみると、カバーの表4に折尺、カバーを外すとかなづちが出てきた。


 丁寧に書かれたベテラン大工の仕事の話は、ときに専門的なのに図解がなくて要領を得ない。でも、語り口がよく楽しいから、いいよ、先を続けてという気分になる。

 ずっと持っていたい本。

 デザインは水戸部功氏。


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# by robinsonfactory | 2017-11-03 10:20 | Comments(0)
マクソーリーの素敵な酒場

『マクソーリーの素敵な酒場』(ジョゼフ・ミッチェル)

 濃い緑色の表紙に、白抜きで英語のタイトルが入っている。帯を取ると、酒場の入口、扉が開いていて店内が見える構図だとわかる。手描きのタイトルは看板なのだ。白と黒と緑の単純な線が、古い雰囲気を作り、1940年頃の酒場へ誘ってくれる。

 てっきり、この表紙は、元の英語版を流用していると思っていた。では、日本語タイトルが入っている、中央の白い部分には何が描かれていたのだろう。酒場のカウンターの奥にあたるところだ。

 アマゾンで調べると、英語版の表紙にはセピア調の写真が使われ、まったく違う雰囲気。ノンフィクションらしさが漂う。ということは、日本語版は、あらたに描いたものなのだろう。

 書店で最初に手にしたとき、酒場を舞台にした小説だと思った。しかしそれは、最初の一文を読んだ瞬間に誤解だったと気づく。それでも、読めば読むほど、これは本当の話なのだろうかと疑いたくなる。それほど、変わった人たちが登場する。

 古きよきニューヨーク。

 失われた街の、失われた場所。そんな郷愁にひたりながら、ネットで検索してみると、「マクソーリーズ・オールド・エール・ハウス」は、現在も営業しているのだった。

 装丁は重実生哉氏。


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# by robinsonfactory | 2017-10-24 18:04 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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