マクソーリーの素敵な酒場

『マクソーリーの素敵な酒場』(ジョゼフ・ミッチェル)

 濃い緑色の表紙に、白抜きで英語のタイトルが入っている。帯を取ると、酒場の入口、扉が開いていて店内が見える構図だとわかる。手描きのタイトルは看板なのだ。白と黒と緑の単純な線が、古い雰囲気を作り、1940年頃の酒場へ誘ってくれる。

 てっきり、この表紙は、元の英語版を流用していると思っていた。では、日本語タイトルが入っている、中央の白い部分には何が描かれていたのだろう。酒場のカウンターの奥にあたるところだ。

 アマゾンで調べると、英語版の表紙にはセピア調の写真が使われ、まったく違う雰囲気。ノンフィクションらしさが漂う。ということは、日本語版は、あらたに描いたものなのだろう。

 書店で最初に手にしたとき、酒場を舞台にした小説だと思った。しかしそれは、最初の一文を読んだ瞬間に誤解だったと気づく。それでも、読めば読むほど、これは本当の話なのだろうかと疑いたくなる。それほど、変わった人たちが登場する。

 古きよきニューヨーク。

 失われた街の、失われた場所。そんな郷愁にひたりながら、ネットで検索してみると、「マクソーリーズ・オールド・エール・ハウス」は、現在も営業しているのだった。

 装丁は重実生哉氏。


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# by robinsonfactory | 2017-10-24 18:04 | Comments(0)
すばらしい新世界

『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー)

 書店の棚から文庫本を抜き、表紙を見て驚いた。

 真っ白な背景に、縦書きの文字だけが並んでいる。

「BRAVE NEW WORLD」「ALDOUS HUXLEY」「オルダル・ハクスリー」(やや大きく)「すばらしい新世界」(一番大きく)「[新訳版]」「大森望訳」「早川書房」と、頭揃えで、左右いっぱいに行間を広げて配置されている。

 必要な文字が、これ以上なくシンプルに置かれているだけだが、しっかりと中央のタイトルが一番先に目に飛び込んでくる。これはすごい。デザインも、これが採用されたことも。

 SF好きなら、読んでおくべき小説かもしれないが、ぼくはSFにそれほど執着がないので気に留めず生きてきた。それが何の偶然か手に取ってしまったのだから、読んだ方がいいだろう。

 これはすごい。体裁はSFだが、未来的なしかけはあまり気にならない。この小説は、人が生きていくなかで、どうしようもなく感じてしまう孤独について語っている。孤独を解消するために、人類がみな均等になってしまえばいいという発想。一人の独裁者のエゴを実現するディストピアとは違い、みなが平和で楽しく生きるための方策のひとつとしての未来を描いているのだ。

 デザインは水戸部功氏。


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# by robinsonfactory | 2017-09-18 11:03 | Comments(0)
英国諜報員アシェンデン

『英国諜報員アシェンデン』(サマセット・モーム)

 新潮文庫のスター・クラシックスの1冊。帯についているロゴが、あえて古臭く作っているのがいい。これを見ていると、ずっとずっと昔に書かれたものが、いまだに読み継がれているのは、驚くべきことなのだと気づかされる。

 その中でもモームは、人の描写が素晴らしくて、残りの人生、モームだけを読んで過ごしていもいいのではないか。そう思ったりするくらい好きな作家。

 そんなモームのスパイを扱った小説。

 組織の一部となり、全体がわからないまま、与えられた任務だけをこなす。だから、そもそもこれはどんな活動なのか不明だし、その後どうなったのかも伝わってこない。それが想像力をかきたて、本当のスパイの話を読んでいるような気にもなる。

 はじまりと終わりの欠けた不完全なストーリーのようだが、人物を語る面白さだけで、十分楽しめる。

 何年か過ぎ、再読すると、前回気にもとめなかった細かい描写を見つけ、新しい小説を読んでいるような感覚になるかもしれない。まるで、コンテを重ねて徐々に細部が表れる素描を見ているように。


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# by robinsonfactory | 2017-09-15 22:53 | Comments(0)
儀式

『儀式』(セース・ノーテボーム)

 表紙に石庭の写真。すっと背筋が伸びる気がするのは、日本人だからなのか。表紙の右上から背にかけて、縦にストライプが入っている。背の方は黒と白なので、鯨幕を思わせ、『儀式』というタイトルは「葬式」なのかと一瞬思う。

 小説の舞台はオランダ。3部構成で、最後の部で突然、楽焼がでてきて日本との関わりが生まれる。楽焼にこだわる男は、オランダとインドネシアのハーフ。インドネシアは東洋に含まれるとはいえ、茶の湯に興味を示すには、特別な理由がありそうな気がする。

 遠いヨーロッパから見た、イメージだけの日本のようだ。小説全体から、理解されるのを拒み、寄せ付けない印象を受けるのは、ぼくが日本人だからなのか。

 表紙に石庭を使う違和感は、そんな日本人の気持ちを表しているのかもしれない。

 装丁は奥定泰之氏。


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# by robinsonfactory | 2017-08-16 14:42 | Comments(0)
アラバマ物語

 書店でハーパー・リーの『さあ、見張りを立てよ』を立ち読みしたら、冒頭の2ページですっかり気に入ってしまった。帯に『アラバマ物語』の20年後を描く、とある。その書店に『アラバマ物語』はなかったので、『さあ、見張りを立てよ』だけを購入し、後日『アラバマ物語』を手にした。

 なんだか不思議な本。ペーパーバックほどの大きさで、カバーはなく、表紙、背ともに古風なデザイン。奥付を見ると昭和39年が初版で、おそらくデザインが当時のままなのだ。

 表紙には少女のモノクロ写真が切り抜きで入っている。著者の子供時代かと思ったが、映画化した際に出演した俳優だった。本文の中にも、映画の写真がところどころ挿入されている。1962年の古い映画に、本全体が包まれている。

 子供たちの、たわいない遊びの日々が綴られ、のんびり読んでいくと、少しずつ、日常の中に人種差別が見えてくる。古い時代の話だからと思って読んでいたが、人の本質はあまり変わっていないのではないかと、50年後のアメリカをみて感じる。

 クレジットはないが、装丁は花森安治氏らしい。


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# by robinsonfactory | 2017-08-04 19:44 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
by robinsonfactory
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