あなたの人生の物語

『あなたの人生の物語』(テッド・チャン著)

 映画『メッセージ』の原作。伝えたいことが溢れ、十分にそれをくみ取れない感じがして、映画を見終わったあとすぐに原作本を手にした。

 文字だけの小説は、読む側に想像力を強いる。映像で先に見ていたので、その部分を補うことができたのだが、逆にいうと、映画を見ていなければ、ぼくには想像できない世界が広がっていた。

 この本の中には、8つの短編があり、どれもが独特の世界。SFならではの、存在しないモノが出てくるが、そのものの描写がほとんどない。概念としてはわかるが、その形状となると、どこかで見たものを適当に当てはめて考えるしかない。

 『メッセージ』が素晴らしいのは、そういった細部が丁寧で新しいこと。ぼくが映像制作に関わる人間だったら、きっと嫉妬している。

 かなわないことだが、『メッセージ』の記憶を一度消し去り、何も知らない状態で『あなたの人生の物語』を読みたい。表紙から映画の写真を取り去り、以前の表紙に戻して。でも、それでこの小説が本当に楽しめるのかは疑問だ。


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# by robinsonfactory | 2017-07-13 17:56 | Comments(0)
道程 オリヴァー・サックス自伝

 『道程 オリヴァー・サックス自伝』

 カバーは、光沢のある青灰色のインクを使い、中央に白抜きで大きく「道程」。その文字は、長い道のりを走ってきて傷だらけになったように汚れがついている。太い帯を外すと、上半身だけ見えていた写真の男は、BMWにまたがっているのがわかる。革ジャンを着た精悍な顔つきのこの男が、著者のオリヴァー・サックスだとは思いもよらない。オリヴァー・サックスのイメージは、著者プロフィールにあるヒゲをはやしたおじさんの方だ。

 自伝なのでしかたがないが、時代が前後し、交友関係もつかみにくい。思いつくままに書かれたようで、まるで自分の祖父に、毎晩少しずつ若い頃の話を聞いているようだ。どのエピソードも楽しく、活力に溢れている。

 著者が亡くなってしまったことを考えると、最後に話を聞けて(読めて)よかったという思いになる。過去の著作をひとつずつ、それが書かれたときの状況を思い出しながら読み返していきたい。

 装丁は水戸部功氏。


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# by robinsonfactory | 2017-05-31 19:12 | Comments(0)
怪物はささやく

 映画館の予告で『怪物はささやく』が映画化されたことを知った。

 何年も前に原作本は購入しているが、ずっと本棚に埋もれたまま。この機会に読まないと。

 あすなろ書房版の本のカバーは、不気味なモノクロの絵に、細い明朝体の書名が白抜きで大きく入っている。絵に焦点を合わせると、書名が消え、少し離して遠目に見ると書名が浮き出てくるようだ。文字に加工が施され、「怪物」はやや不気味に、「ささやく」は優しげだ。

 この書名のデザインとほぼ同じものが、映画の日本語版タイトルにも使われている。それだけ、ロゴの雰囲気が物語と合っているのだろう。

 本文には、毎ページのようにイラストが挿入されていて、怪しげな雰囲気を醸し出している。イラストに合わせて、丁寧に文字を送っている。

 テーマは重い。死に向かっていく母親の姿を、受け入れられない少年の話。

 やりきれない気持ち、苛立ちを著者は表現したかったのだろうが、どうもぼくには届いてこなかった。

 でも、きっと映画は面白いはず。だって『パンズ・ラビリンス』の製作スタッフが映画化したというのだから。

 本のデザインは、鈴木成一デザイン室。イラストはジム・ケイ。



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# by robinsonfactory | 2017-05-27 10:33 | Comments(0)
救い出される

 『救い出される』(ジェイムズ・ディッキー著)

 表紙の写真には、水面とカヌーの櫂。武骨なアウトドア小説を思わせる。でも読み始めると、中年の男たちの、子どもじみた川下りの計画。ちょっした冒険のようだ。

 カヌーを積んだ車で、川の上流を目指すが、川に降りる場所さえなかなか見つからない。おまけに車を預ける地元の男が、信用できるのかどうかもわからず、トラブルの予感もする。

 川に乗り出しても、文明の、人の、町の匂いがまとわりついて、とても自然と遊んでいるようではない。このちぐはぐな感じが、妙に気になる。

 そして、突然の思わぬ展開。緊張感の連続。登場人物が入れ替わったように、雰囲気ががらりと変わる。なんて小説だろう。


 表紙の写真の背景には、森林のイラスト。よく見ると、いくつもの目が描かれている。後半、誰かに見られているかもしれないという疑念はずっとあって、その落ち着かない感じを思い出す。

 カバーイラストは柳智之氏。



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# by robinsonfactory | 2017-05-10 22:31 | Comments(0)
失われた時を求めて 全一冊

『失われた時を求めて 全一冊』(マルセル・プルースト著)


 たった500ページほどにまとめられた『失われた時を求めて』。刻まれ、つないだ印象は否めないものの、楽しく読むことはできた。オリジナルの長さで読んだことがないので比較はできないが、この本は、手に取った人を歓迎しているような印象を与える。

 短くなっているとはいえ、500ページは長い。ほかの本だったら満腹になっているはずなのに、なぜかおかわりが欲しくなる。本来の文章から何が削がれ、雰囲気がどう変化したのか知りたくなる。

 本の姿がいい。選ばれた色、書体、線、アイコン、すべてが素敵。とくに背がよくて、この新潮モダン・クラシックスを何冊も書棚に並べておきたい。ただラインナップが微妙。


 と思っていたけれど、シリーズの「ドリトル先生航海記」を読んでみたら、あっという間に引き込まれてしまった。


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# by robinsonfactory | 2017-04-14 22:27 | Comments(0)
   

フリーランスのデザイナー 仕事の合間
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